【眼科3】糖尿病網膜症 〜単純、増殖前、増殖、ルベオーシス〜【102A39、108C24、103D9】

※全18回です。目次はこちらです。

コウメイ:今回は糖尿病網膜症について説明します。

単純糖尿病網膜症は点状出血、血管瘤、硬性白斑・・、
増殖前糖尿病網膜症は軟性白斑・・、
増殖糖尿病網膜症は新生血管、硝子体出血、増殖膜・・。

とだけ呪文のように丸暗記している人はいませんか?別にそれでもいいのですが、つまらないし、覚えにくいですよ。きちんと本質を理解しましょう。

目次

1)単純糖尿病網膜症の本質

医師国家試験96F9_画像_単純糖尿病網膜症の眼底写真
画像:医師国家試験96F9より改変

単純糖尿病網膜症の本質は血管が脆くなることです。その結果、血管瘤や点状出血が起こるというのはイメージできますよね。
※点状出血、斑状出血、シミ状出血はほぼ同じものと考えて大丈夫です。

血管が脆くなると、血漿(水分や脂肪)が漏れやすくなります。水分は周りの血管から吸収されますが、脂肪はなかなか吸収されません。その結果、塊として残ります。それが硬性白斑です。つまり、硬性白斑=脂肪です。

なお、血管瘤、点状出血、硬性白斑のいずれも自覚症状はありません。

2)増殖前糖尿病網膜症の本質

人間の体は眼に限らず、脆くなると修復が起こります。前と全く同じく修復してくれれば良いのですが、そう上手くはいかず、線維化が起こってしまいます。

眼の血管も同じで、脆くなると修復が起こるのですが、線維化が起き血管が閉塞してしまいます。それが増殖前糖尿病の本質です。

話を分かりやすくするため、細い静脈が閉塞したとしましょう。視神経(視神経に限らず全ての細胞がそうですが)は動脈から水分や栄養をもらって、余分な水分や栄養を静脈に戻します。

この時、静脈が閉塞していると余分な水分が戻ることができず、視神経に溜まってしまいます。その結果、視神経が浮腫を起こし膨らんでしまいます。

正常な視神経はよく見えませんが、浮腫を起こし膨らんだ視神経はもやもやとした白い物質として見ることができます。それが軟性白斑です。つまり、軟性白斑=浮腫を起こした視神経です。軟性白斑に自覚症状はありません。

医師国家試験108C24画像A_糖尿病網膜症(軟性白斑)の眼底写真_改変
画像:医師国家試験108C24より改変

3)増殖糖尿病網膜症の本質

血管が閉塞するとその周囲は血液が流れません。その部分を無灌流域と言います。無灌流域は栄養や酸素を欲しており、VEDFという物質を分泌します。VEGFがあると新生血管が生えてきます。

医師国家試験102A39_画像_糖尿病網膜症の眼底写真_改変(新生血管)
画像:医師国家試験102A39より改変

「新しい血管が生えてくるんだからいいじゃないか」 とお思いの方もいるかもしれませんが、そう上手くは行きません。この新生血管はめちゃくちゃ脆いのが特徴です。すぐに破けて硝子体出血を起こしてしまいます。

また、新生血管があると、増殖膜と言う、特殊な膜もできてしまいます。

医師国家試験101A10_画像_改変_糖尿病網膜症の眼底写真(増殖膜)
画像:医師国家試験101A10より改変

「膜ぐらいあってもいいじゃないか」とお思いの方もいるかもしれませんが、こちらもダメです。この膜は収縮する作用があり、網膜を引っ張ってしまいます。その結果、感覚網膜が網膜色素上皮から剥がれ、網膜剥離を起こしてしまいます。これを牽引性網膜剥離と言います。

新生血管、増殖膜自体に自覚症状はありません。硝子体出血、網膜剥離が起こると症状が出現します。以上が糖尿病網膜症の本質です。これを頭に入れ、国試の過去問を見てみましょう。

医師国家試験102A39

52歳の男性。右眼の精密検査のために来院した。35歳時の健康診断で糖尿病と診断された。49歳時に眼底出血を指摘され、レーザー治療を受けた。その後は自覚症状がないままに糖尿病自体の治療も含めて放置していたが、1か月前に右眼の霧視が出現し、視力低下を自覚した。その後視力低下は自然に改善したが心配になり受診した。右眼の視力は1.2(矯正不能)。角膜と水晶体とに異常はなく、硝子体中に混濁を認める。右眼の眼底写真を別に示す。

医師国家試験102A39_画像_糖尿病網膜症の眼底写真

霧視の原因になった病変はどれか。

a ①
b ②
c ③
d ④
e ⑤

正解は③の新生血管ですが、これだけでは霧視どころか自覚症状は全くありません。新生血管が破けて、硝子体出血を起こすと霧視が出現します。霧視と言うよりは、全く見えなくなります。これが硝子体出血の画像です。全く見えなそうですよね。

医師国家試験99A10_画像_硝子体出血の眼底写真
画像:医師国家試験99A10

ちなみに、①は点状出血、②は硬性白斑ですが、先程も説明した通り、自覚症状は全くありません。④は視神経乳頭、⑤は網膜ですが、特に異常はなさそうです。

医師国家試験102A39_画像_糖尿病網膜症の眼底写真_改変(各病変の名称)
画像:医師国家試験102A39

4)糖尿病網膜症の治療

次は治療について説明していきますが、まずはこちらを読むとより理解が深まります。

医師国家試験108C24

55歳の男性。視力障害を主訴に来院した。3か月前から左眼の視力低下を自覚していたが、昨日突然見えなくなった。最近5年は健康診断を受けていない。受診時の矯正視力は右1.0、左手動弁。左眼は硝子体出血のため眼底が観察できなかった。右眼の眼底写真(A)と蛍光眼底造影写真(B)を別に示す。左眼には硝子体手術による治療を予定した。

医師国家試験108C24画像A_糖尿病網膜症(軟性白斑)の眼底写真
A
医師国家試験108C24_画像B_糖尿病網膜症の造影写真
B

a 経過観察
b 硝子体手術
c 網膜光凝固
d 光線力学的療法
e 副腎皮質ステロイド内服

糖尿病網膜症の治療は造影写真が重要なので説明していきます。造影写真を見ると、真っ黒の部分があるのが分かります。

糖尿病網膜症の造影写真

これは造影剤が届いてない、つまり血液が流れていない無灌流域であることが分かります。先程説明したように、無灌流域からはVEGFが出るので新生血管が生えてきます。それがピンクの矢印のもやもやした部分です(ピンクの矢印の部分以外にも生えています。)。

この新生血管は硝子体出血の原因なので無い方がよいです。これを無くすにはVEGFの分泌を止めればよく、そのために無灌流のところにレーザーを打ちます。レーザーは別名、網膜光凝固術とか網膜レーザー光凝固術と呼ばれます。

※光線力学的療法という治療もありますが、こちらは加齢黄斑変性の治療であり別物です。

5)虹彩ルベオーシス

無灌流域からVEGFが分泌されますが、このVEGFは硝子体や房水を通じて虹彩に辿り着き、そこで新生血管を生えさせてしまいます。この虹彩の新生血管を特別に虹彩ルベオーシスと呼びます。下の写真が虹彩ルベオーシスです。

虹彩ルベオーシス
© eyerounds.org (Licensed under CC BY-NC-ND 3.0)

本来なら虹彩にはっきりと見える血管は存在しませんが、誰が見ても血管と分かるものが存在しますね。これが虹彩ルベオーシスです。虹彩ルベオーシスに関して過去問があるので、ちょっと問題を見てみましょう。

医師国家試験103D9

増殖糖尿病網膜症の眼所見はどれか。2つ選べ

a 結膜下出血
b 強膜炎
c 虹彩ルベオーシス
d 白内障
e 硝子体出血

正解はc、eというのは分かると思いますが、なぜわざわざ虹彩ルベオーシスとう名前が付いているのでしょうか?覚えるのが大変ですよね。覚えるのが大変なのにわざわざ特別な名前が付いているかというと、特別な意味があるからです。

虹彩と強膜の境を隅角と言いますが、そこには房水の排出路であるシュレム管が存在します。虹彩に新生血管が生えてしまうとシュレム管が閉塞してしまい、房水が排出されなくなります。

その結果、房水が眼内にたまり、眼圧がどんどん高くなっていきます。つまり、緑内障ですね。

別の回で詳しく説明しますが、普通の緑内障は年単位で徐々に悪くなる病気です。一方、虹彩の新生血管による緑内障は日、週単位でどんどん悪化し、無治療だと失明します。

かなり悪い病気であるのが分かっていただけたでしょうか?そういう理由で虹彩の新生血管は特別に虹彩ルベオーシスという特別な名前がついています。ここまで知っていればもう忘れないですね。

以上で糖尿病網膜症の説明は終わりです。より理解が深まったのではないでしょうか?

次回は網膜中心静脈閉塞症について説明していきます。

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