コウメイ:読者の方より「クモ膜下出血に脳血管造影は禁忌なのでは?」との質問をいただいたので解説します。まずは質問の元になった医師国家試験の問題を見てみましょう。
55歳の男性。突然激しい頭痛が起こり、意識がもうろうとしてきたため救急車で搬入された。頭部単純CTを別に示す。
次に行う検査はどれか。
a 脳脊髄液検査
b 脳波
c 脳血管造影
d 頭部MRI
e 脳SPECT
この問題に対し以下のような質問を持ったようです。
正解は脳血管造影ですが、「造影剤が血管外に出てはまずいのでは?」と思い選べませんでした。造影剤はくも膜下腔にあっても問題ないということでしょうか?
また、なぜCT、MRIより血管造影が優先されるのでしょうか?
1)禁忌は消化管穿孔にバリウムのみ
結論から言います。
消化管穿孔にバリウムは禁忌。
禁忌はこれだけです。他にはありません。以下は禁忌ではありません。
- 消化管穿孔に水溶性造影剤の経口投与
- 消化管穿孔に血管造影(造影CT)
- 大動脈解離にバリウム ※やる意味はありませんが
- 大動脈解離に水溶性造影剤の経口投与 ※やる意味はありませんが
- クモ膜下出血に血管造影(造影CT)
- クモ膜下出血にバリウム ※やる意味はありませんが
- クモ膜下出血に水溶性造影剤の経口投与 ※やる意味はありませんが
- クモ膜下出血に血管造影(造影CT)
クモ膜下出血に脳血管造影は禁忌ではありません。むしろやるべきです。
2)クモ膜下出血に脳血管造影を行う理由
クモ膜下出血に脳血管造影が禁忌ではないことが分かったところで、
「なぜ単純CTでクモ膜下出血と診断できたのにわざわざ脳血管造影を行うのか?」
を考えてみましょう。
クモ膜下出血と診断した後はクリッピングやコイル塞栓を行いますよね。どの血管を治療しますか?具体的に指を指してください。
具体的に指を指すことはできないですよね。単純CTではクモ膜下出血と診断はできますが、脳の細い血管を写すことは難しいので、どの血管を治療すべきかを知ることはできません。そこで脳血管造影の出番です。
脳血管造影は大腿動脈からカテーテルを入れ、脳血管(内頚動脈、椎骨動脈)まで進めます。そこで造影剤を一気に注入し撮影を行います。1本、1本の血管がかなり鮮明に映しだされます。
この検査でどこの血管に動脈瘤があるか診断し、クリッピングやコイル塞栓を行います。
3)CT-angioやMRAでは限界がある
同様のことはCT-angio(造影CT)やMRAでも行うことができます。しかし、脳血管造影ほどきれいには血管が写りません。よって、今のところ非常に小さい病変を見つけるには脳血管造影を行うしかありません。
※当然と言えば当然です。脳血管造影は脳血管のすぐ近くの動脈から造影剤を入れるのに対し、CT-angioでは腕の静脈から造影剤を入れます。MRAは造影剤を使用しません。よって、脳血管造影 > CT-angio > MRA の順で血管が見やすいです。
※最近のCT-angioは性能がよくなってきたので正解の候補にはなり得ます。
以上で解説は終わりですが、
造影剤は禁忌と短絡的に覚えているひとがゼロになる
ことを望んでいます。
こちらも読むと造影剤に対する理解が深まります。