【全問解けます】小児の輸液まとめ【97F21、108G57、110A54、110G53】

コウメイ:今回は小児の輸液を解説します。特に以下の3つについて詳しく説明しますが、これを読めば全ての過去問を納得し解けるようになります。

目次

1)初期輸液は1号液のみか?

「小児の初期輸液は1号液を使用する」とどこかで聞いたことがあるかもしれません。これについて考えてみましょう。

1号液は生食(Na 154mEq/L)と5%ブドウ糖液とを約1:1で混ぜたものです。Kは入っていません。商品によってはpHの緩衝剤として乳酸が入っているものがあります。

生食と5%ブドウ糖液をちょうど1:1で混ぜるとNa 77mEq/L、ブドウ糖2.5%になります。商品で言うとデノサリン1になります。ソルデム1という商品はNa 90mEq/L、ブドウ糖2.6%とどちらもやや高めで、乳酸を含みます。

1号液は生食と5%ブドウ糖液とをバランスよく含んでいるので、初期輸液として無難な選択肢になります。以下の問題がそうです。

医師国家試験97F21

6ヵ月の乳児。2日前から続く発熱、嘔吐および下痢を主訴に来院した。体重は7、410gで、2日前に比べて390g減少した。体温38℃。脈拍144/分、整。大泉門は軽度陥凹している。口唇は乾燥し、咽頭は発赤している。心雑音はない。胸部でラ音を聴取しない。腹部は平坦で肝・脾は触知しない。皮膚緊張度は低下している。排尿はみられない。

この患児の初期輸液の組成で適切なのはどれか。

医師国家試験97F21_画像_輸液の組成の表

a
b
c
d
e

正解はbです。1号液の組成であり、商品名で言えばソルデム1になります。

では初期輸液として1号液しか使用してはいけないかというとそうではありません。血管内容量が少ないと判断される場合は、血管内に残りやすい生食も選択肢になります。以下の問題がそうです。

医師国家試験108G57

7か月の乳児。嘔吐と下痢とを主訴に母親に連れられて来院した。昨日未明から頻回の嘔吐が始まり、夕方からは水様下痢も始まった。尿は昨晩から出ておらず、ぐったりしている。身長61cm、体重6.3kg(1週前は7.0kg)。体温38.2℃。心拍数140/分、整。血圧72/56mmHg。呼吸数20/分。SpO2 98%(room air)。全身状態は不良。大泉門は陥凹。項部硬直を認めない。咽頭に発赤を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は陥凹し、軟で肝・脾を触知しない。皮膚のツルゴールは低下している。血液所見:赤血球460万、Hb 15.0g/dL、Ht 45%、白血球11,000(分葉核好中球53%、好酸球3%、好塩基球2%、単球2%、リンパ球40%)、血小板22万。血液生化学所見:総蛋白7.8g/dL、アルブミン5.0g/dL、尿素窒素24mg/dL、クレアチニン0.4mg/dL、血糖80mg/dL、Na 128mEq/L、K 4.2mEq/L、Cl 88mEq/L。直ちに輸液を開始した。

輸液の組成として適切なのはどれか。

医師国家試験108G57_画像_輸液の組成の表

a
b
c
d
e

正解はbの食塩水です。cはNaの濃度だけ見れば1号液っぽいのですが、Kが20mEq/L含まれており2号液です。後で詳しく説明しますが、自尿がない場合、初期輸液に含んでよいKは4mEq/Lまでです。それより高いのは高K血症になる可能性があり基本的にはダメです。
※2号液と4号液は臨床ではほぼ使用されません。
※自尿がない場合のK濃度は5mEq/Lや6mEq/Lでも良い可能性はありますが、そのような商品はないので4mEq/Lで覚えておけばよいでしょう。

このように血管内脱水がある場合の初期輸液は1号液も生食も選択肢になります。しかし、97F21では生食が誤答選択肢になっていました。この理由を考えてみます。あくまで私の考えですが、「昔は小児の初期輸液と言えば1号液」のような主張が多かった気がします。小児では生食を投与すると血管内容量が増えすぎてしまう危険性があるからです。

しかし、最近の本を見ると小児でも血管内脱水があれば生食が選択肢に挙げられています。むしろ、投与速度を適切に調整すれば病態からは生食の方が適切です。よって、現在は1号液、生食のどちらも正解選択肢と考えてよいでしょう。

2)初期輸液にK入りの輸液は禁忌か?

先程、血管内脱水があれば生食も選択肢になると説明しました。では、乳酸リンゲル(商品名で言えばラクテックなど)はどうでしょうか?
※日本で使用される乳酸リンゲルには4mEq/LのK(カリウム)が含まれています。

「尿が出ていない状況では、高K血症になる可能性があるのでK入りの輸液はしてはいけない」

と習った方もいらっしゃるでしょう。確かにK入りの輸液製剤を使用すると高K血症になりそうな気がします。そうなるとKの入っている乳酸リンゲルではなく、生食のみが選択肢になります。

しかし、ここでよく考えていただきたいのですが生食のpHは7.0です。血液のpHは7.4ですので生食を大量に輸液するとアシデミアになります。人の体は代償として細胞にHを取り入れ、Kを細胞外(血液)に排泄します。

アシデミア_HとKの移動_これだけ輸液
図:拙著『これだけ輸液』(日本医事新報社刊)より

その結果、血液のK濃度は上がる可能性があります。では、生食とリンゲル液のどちらが良いのでしょうか?

1つの論文を紹介します。腎不全患者で腎移植をする際にリンゲル液と生食に分けて行うというものです。その結果、リンゲル液の方が高K血症を来しにくいことが分かりました(Anesth Analg 2005; 100: 1518-24)。
※正確には主要評価項目はクレアチニンで、Kは副次評価項目になります。

よって、リンゲル液も選択肢になり得ます。以下がその問題です。

医師国家試験110A54

6か月の乳児。嘔吐と下痢とを主訴に母親に連れられて来院した。昨日の昼から頻回の嘔吐があり、本日の昼に水様下痢も出現したため受診した。母乳はほとんど飲まず、わずかに飲んでも嘔吐してしまう。患児はぐったりしており、目は落ちくぼんでいる。昨日の夕方から排尿を認めない。1週前に乳児健康診査で測定した体重は7.7kgであったが、本日は7.0kgであった。

この児に適した初期輸液の組成はどれか。2つ選べ

医師国家試験110A54_画像_輸液の組成の表

正解はaの生食とbの乳酸リンゲル液です。
※bは正確にはブドウ糖加乳酸リンゲル液(商品名で言うとラクテックD)です。

「選択肢に1号液が入っていたらどうするのですか?」

このように気になる方もいらっしゃるでしょう。1号液が入っていたら1号液も正解になると思います(前述の通り、比較的Kを多く含む2号液は正解になりません)。

3)肥厚性幽門狭窄症の初期輸液にKは必須か?

最後に肥厚性幽門狭窄症の輸液について考えます。肥厚性幽門狭窄症は胃液を嘔吐し血液はアルカレミアになっていますので、乳酸(体内で代謝されてアルカリ性の物質になる)を投与してはいけないと習ったと思います。これは正しいです。

「アルカレミアになると細胞から血液にHが、血液から細胞にKが移動し低K血症になる。よって、Kを投与しなければいけない」と勉強された方もいるかもしれません。

アルカレミア_HとKの移動_これだけ輸液
図:拙著『これだけ輸液』(日本医事新報社刊)より

肥厚性幽門狭窄症のK投与は「検討する」ものであり必ず投与する訳ではありません。一方、乳酸を投与してはいけないのは絶対です。以下の問題を見てみましょう。

医師国家試験110G53

生後3週の新生児。吐乳を主訴に母親に連れられて来院した。在胎39週、2,860gで出生した。5日前から嘔吐がみられ、次第に哺乳の度に嘔吐がみられるようになったため受診した。今朝からまだ排尿がない。現在の体重は2,920g。体温36.6℃。脈拍120/分、整。血圧90/62mmHg。皮膚のツルゴールは著明に低下しており、上腹部は軽度膨満している。血液所見:赤血球420万、白血球9,600、血小板24万。血液生化学所見:Na 131mEq/L、K 3.4mEq/L、Cl 86mEq/L。動脈血ガス分析(room air):pH 7.51、PaCO2 43Torr、PaO2 97Torr、HCO3 33mEq/L、BE〈base excess〉+7.6 mEq/L。上腹部の超音波像を別に示す。

医師国家試験110G53_画像_肥厚性幽門狭窄症の超音波(エコー)

この患児に最も適切な初期輸液の組成はどれか。

医師国家試験110G53_画像_輸液の組成の表

正解はcです。1号液の組成で商品名で言えばデノサリン1になります。乳酸が含まれていないので正解になります。

bも1号液の組成で商品名で言えばソルデム1になります。Kが含まれていないから不正解ではありません。乳酸が含まれているから不正解なのです。

aはKが入っているので良さそうと思われるかもしれませんが、乳酸(Lactate)が含まれているのでダメです。この点は譲れません。

dは3号液の組成です。商品名で言えばソルデム3aになります。乳酸が含まれているのでダメです。Kは20mEq/L含まれており、排尿がない場合は多すぎと思われます。また、Na濃度が低いのであまり血管内に残りません。この点からも正解になりません。

eは5%ブドウ糖液です。乳酸が含まれていないのは良い点ですが、Naが含まれていないのでダメです。ほとんど血管内に残りません。よって正解になりません。Kが含まれていないから不正解ではありません。

以上、小児の輸液について解説しました。これで全ての問題をきちんと解けるはずです。もし解けない問題や納得できない部分がありましたらご連絡ください。

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