※本記事は連載「これだけ心電図」の一部です。こちらが目次へのリンクになりますので一番初めから読むことをお勧めします。
コウメイ:今回は第3度房室ブロック(完全房室ブロック)について説明していきます。いつも通りまずは病態からです。
1)第3度房室ブロックの病態
ブロックとは電気の流れが悪いこと
そもそも「ブロック」とは電気の流れが悪いことを言ったのでした。特に房室結節での電気の流れが悪いものを房室ブロックと言い、その中でも全く電気が流れないものが第3度房室ブロックです。
洞結節からの命令は左脚・右脚、プルキンエ線維に流れません。ということは、左室や右室は収縮することができません。このままでは全身に血液を送ることができません。大変です。
自動能:バックアップ機能
そんな時のために、人間はバックアップ機能を持っています。本来なら洞結節が命令を出しますが、ヒス束も命令を出すようになります。これを自動能と言います。洞結節とヒス束の2か所から命令がでており、洞結節は心房に、ヒス束は心室に命令を送っています。ヒス束から心室に命令が出ているので、心室は収縮することができます。
ここまで聞くと、一件落着かのように思いますがそうではありません。ヒス束はあくまでバックアップであるのでテンポがゆっくりです。具体的には1分間に30回位しか命令を送ることができません。その結果、心室は1分間に30回しか収縮することができません。
2)第3度房室ブロック(完全房室ブロック)の心電図
以上の病態からどのような心電図になりそうか考えてみましょう。
心房(P波)に注目
まず、心房には普通に命令が伝わり、普通に収縮しているので、P波は正常そうです。P波だけに注目するとこんな感じです。
心室(QRS波)に注目
一方、心室は1分間に30回しか収縮していないので、QRS波は1分間に30回しか見られません。その結果、QRS波とQRS波の間隔(RR間隔)は広くなりそうです。QRS波だけに注目するとこんな感じです。
P波とQRS波を合体させると・・
実際はP波とQRS波はひとつの紙に印刷されるので、第3度房室ブロックの心電図はこれらの心電図を合わせたものになります。
※T波はQRS波とセットなので、QRS波があれば出現します。
3)第3度房室ブロックの特徴
これで、第3度房室ブロックの成り立ちは分かりました。それでは第3度房室ブロックの心電図はどのような特徴があるか考えて見ましょう。
まず、P波とP波との間隔(PP間隔)は正常です。当たり前ですね。QRS波とQRS波の間隔(RR間隔)は正常より広くなっています。これも大丈夫ですね。
そして、これが第3度房室ブロックの一番の特徴ですが、P波とQRS波との間隔(PQ時間)がバラバラです。だって、心房と心室はそれぞれ別のところから命令を受けていますからね。
まとめると、
- PP間隔正常
- RR間隔正常
- PQ時間がバラバラ
この3つが第3度房室ブロックの特徴ですが、この特徴は覚えるものではありません。覚えるべきは病態です。病態を理解し、その病態から自分で心電図を考えられるようになることが大切です。
以上、第3度房室ブロック(完全房室ブロック)について説明しました。
4)「これだけ心電図」の続きについて
次は第2度房室ブロックの心電図について説明していく予定でしたが、臨床が忙しく中々更新できずにいました。そんな中、執筆の依頼があり、2015年に看護師向けの、2018年に医師(初期研修医、医大生)向けの心電図本を出版することになりました。
それぞれブログの内容より、より分かりやすくより詳細に記述しました。書籍を読んでいただいた方が明らかにタメになります。かつ、著作権にも関わることなので、(今のところ)「これだけ心電図」を更新はしない方針としました。
特に学生の方は無料で読みたいと思われるでしょう。お気持ちは分かります。しかし、よく言われることですが、人間は無料のものを利用すると本気で勉強しようとは思わないものです。真の目的(心電図の知識を得る)を考えると、多少お金を払ってでも書籍を購入し勉強することをお勧めします(拙書や心電図に限った話ではありません)。
【医師(初期研修医、医大生)向け】
【看護師向け】
※看護師さんでも「心電図検定」を受けようとしている方は「レジデントのためのこれだけ心電図」の方がお勧めです。