黒色便がある患者に直腸診とスプーンネイルの確認のどちらを行うべきか?【106C21】

コウメイ:読者の方より貧血の検査について質問をいただきました。まずは質問の元になった問題を見てみましょう。

医師国家試験106C21

64歳の女性。2週前から、家庭用血圧計で測定した脈拍が毎分90回を超えるようになったことを心配して来院した。1週前から、2階まで階段を昇ると息切れを自覚するようになった。食生活に偏りはなく、過去1年の体重は一定しており、便通は5日に1回程度、黒色調であったという。体温36.2℃。脈拍96/分、整。血圧132/72mmHg。呼吸数24/分。眼瞼結膜は蒼白である。眼球結膜に黄染を認めない。甲状腺の腫大を認めない。胸骨左縁第3肋間を最強点とするII/VI度の収縮期雑音を聴取する。呼吸音に異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。腹部に腫瘤や圧痛を認めない。

診察する部位で最も重要なのはどれか。

a 上肢
b 乳房
c 脊柱
d 直腸
e 下肢

この問題に対し以下のような疑問を持ったようです。

読者からの質問

臨床所見、黒色便から上部消化管出血による鉄欠乏性貧血が考えられます。しかし、診察する部位で最も重要な部位が直腸であることが理解できません。直腸を重要な診察部位と考えるのは血便の場合ではないのでしょうか。私は鉄欠乏性貧血からスプーンネイルを考えて、上肢を重要な診察部位と考えました。回答よろしくお願いします。

厚生労働省の発表では正解はdの直腸です。私も上肢よりは直腸がいいかと思います。3つ理由があるので順に説明していきますね。

目次

1)黒色便かどうか医師が確認することが重要

まず、本当に黒色便かどうか実際に自分の目で確かめることが大切です。患者の言葉はあくまで患者の言葉です。間違った表現をしているかもしれません。医師がきちんと確かめる必要があります。

2)スプーンネイルの有無で方針が変わるか?

スプーンネイルが鉄欠乏性貧血の方の何%に現れるか知っていますか?全員と思うかもしれませんが実際は約25%です。

診察や検査を行うからにはその後の方針が変わらないと意味がありません。この患者はスプーンネイルの有無でその後の方針が変わるでしょうか?

① スプーンネイルがあった場合

まずはスプーンネイルがあった場合を考えてみましょう。鉄欠乏性貧血の可能性が高く、黒色便があるので出血源としては上部消化管が考えられます。よって、「上部内視鏡検査で出血源を確認しよう」となります。

② スプーンネイルがない場合

次にスプーンネイルがない場合を考えてみましょう。スプーンネイルは鉄欠乏性貧血の25%にしか現れません。よって、鉄欠乏性貧血を否定することはできません。黒色便があるので出血源としては上部消化管が考えられます。よって、「上部内視鏡検査で出血源を確認しよう」となります。

以上から分かるようにスプーンネイルがあってもなくても方針が変わりません。

3)その他疾患の診断

この患者は出血がありそうです。出血源は上部消化管の可能性が高いです。ただし、出血源は上部消化管だけでしょうか?直腸癌や痔はないでしょうか?合併している可能性も考えられます。

それを視診や直腸診で確かめる必要があります。特に直腸癌があった場合、治療が変わってくるのできちんと有無を確認することは大切です。以上の理由から上肢よりは直腸の方が重要と考えられます。

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