コウメイ(@kokusigokaku):虚血性心筋症について質問をいただいたので回答します。まずは質問を見てみましょう。
いつも明快なご解説、ありがとうございます。勉強を進める上で大変助かっています。医師国家試験107I7で質問があります。
問題:拡張型心筋症と虚血性心筋症の鑑別に最も有用な検査はどれか。
- 冠動脈造影
- 心エコー
- Holter心電図
- 安静時心血流SPECT
- 血漿脳性ナトリウム利尿ペプチド<BNP>測定
正解:a
質問者:なぜd 安静時心筋血流SPECTよりもa 冠動脈造影が鑑別に有用かわかりません。多くの場合、狭心症の病態には冠動脈狭窄、冠攣縮、(CAGでは評価できないような)coronary microvascularの障害の3つの因子が関与しており、しかも一人の患者において3つの因子のうちいくつかが重複して作用していることが多いと大学で教わりました。
そのためCAGで冠動脈狭窄が見られなくても狭心症を否定できないし、逆にCAGで冠動脈狭窄が見られたからといって他の2つの病態を否定できるわけでもないとのことでした。
そう考えると心筋虚血の有無を鑑別するにはa 冠動脈造影よりもd 心筋血流SPECTの方が、虚血を直接評価できるため、確実なのではと思いました。たとえば、狭心症には上記の3つの因子が関与しているけれども虚血性心筋症の原因として冠攣縮とcoronary microvascular disordersは確認されていない、という背景があるのでしょうか?
もしよろしければ、ご教授いただけますと幸いです。よろしくお願い申し上げます。
なかなか難しい問題ですね。やや専門的な内容ですので細かい点までは難しいですが、大事な部分を説明していきます。
虚血と梗塞
心筋症は何らかの原因で心臓の動きが悪くなるものを言いますが、虚血が原因のものが虚血性心筋症です。
ここで重要なのは虚血と梗塞の違いです。虚血はあくまで血流が少ないだけで血液は流れています。一方、梗塞は血液は流れていません。ここまではいいですよね?
安静時の血流状態
より重要なのは安静時の状態です。安静時はそれほど栄養や酸素を必要としません。よって、正常な部位も虚血である部位も摂取している栄養や酸素はほぼ変わらないと思います。実際、冠動脈が75%まで狭窄するまで安静時は狭心症は起こらないとされています。
一方、運動時(負荷時)はより多くの栄養や酸素を必要とします。正常な部位は血液がどんどん流れるので多くの酸素や栄養を取り込むことができますが、虚血の部分はそれらをあまり摂取することができません。
この栄養や酸素の取り込みを見たのがSPECTになります。負荷時と安静時とではどれだけ取り込み量が違うか見てみましょう。
https://www.nmp.co.jp/member/heartpm/kakuigaku/spect_form.htmlより引用
左が負荷時で右が安静時です。安静時の方がTcを多く投与しているので安静時の方が負荷時より取り込み量が多くなっていますがそこは気にしないでください。大事なのは正常領域と虚血領域との差です。
負荷時は正常領域と虚血領域との差がはっきりしていますが、安静時はほぼ差がありません。著しい虚血になれば別ですが、安静時のSPECTでは正常領域と虚血領域とを区別するのは難しいです。
冠動脈造影
ではどのように区別したらよいかですが、冠動脈造影になります。虚血部位では冠動脈が狭窄していますのでそれを確認します。もしくは、負荷時であれば心血流SPECTが正解になるかもしれません。重要なポイントは以上になります。
残りの質問である冠攣縮やcoronary microvascular disordersは虚血性心筋症の原因にならないのか?について最後回答します。まず冠攣縮ですが、攣縮している時間は分単位でありそこまで長くないのでおそらく心筋症にはならないと思います。
また、冠動脈造影では捉えきれない微小な血管病変であるcoronary microvascular disordersはもちろん顕微鏡レベルでは変化がありますが、いわゆる心筋症にはならないと思います。少なくとも現段階では冠動脈造影で冠動脈狭窄が無いものを虚血性心筋症と診断することはないでしょう。
以上で解説は終わりです。
※こちらも併せて読むとタメになります。
拡張型心筋症と虚血性心筋症との見分け方