コウメイ:読者の方からクレアチニン・クリアランスについて質問をいただいたので回答します。
クレアチニン・クリアランス(以下CCr)について質問があります。
① Ccrとは糸球体に流れる血漿量(mL/分)とのことですが、クレアチニンのクリアランスと言うのだから血漿量ではなく、尿のクレアチニンの量で表せば良いように思えます。なぜ、わざわざ血漿量に換算するのでしょうか?
② クリアランスの概念をよく理解できていない私だから抱く疑問なのかもしれませんが、「Ccrの値が高い、低い」と言われた場合、そこから何を感じ取れば良いのでしょうか。
臨床的に大変重要な質問です。私も学生の頃同様に疑問を感じていました。
1)最終的に知りたいのは糸球体濾過量(GFR)
クレアチン・クリアランスと聞くと、クレアチニンがどれだけ排出されたかをイメージしてしまうかもしれません。ただ、臨床的に知りたいのは尿中にクレアチニンがどれだけ排出されたかではなく、そこから計算して得られる糸球体濾過量になります。
よって、クレアチニン・クリアランスという名前がどうであれ、クレアチニン・クリアランスはほぼ糸球体濾過量のことだと思ってください。
正確にはクレアチニン・クリアランスは糸球体濾過量の約1.3倍、逆に糸球体濾過量はクレアチニン・クリアランスの約0.75倍になります。
クレアチニン・クリアランス(mL/分)
=尿中クレアチニン濃度(mg/dL)×尿量(mL/分)÷血清クレアチニン濃度(mg/dL)
≒糸球体濾過量(mL/分)×1.3
2)臨床医としてどう使用するのか?
クレアチニン・クリアランスの名前についてはあまり気にせず、そこから推定される糸球体濾過量がいくつであるかを気にするようにしましょう。臨床的には非常に大切な検査値になります。クレアチニン・クリアランスが低い場合(60mL/分以下は一つの目安)は以下のことを考える必要があります。
原因
クレアチニン・クリアランスが低くなる、つまり腎臓が悪くなるからには何かしら原因があります。その原因を特定することが大事です。
薬の投与量の変更
クレアチニン・クリアランスが低い場合、つまり腎機能が悪い場合、投与量を変更しなければいけない薬(抗生剤、糖尿病薬、抗癌剤、造影剤など)があります。薬を投与する際は必ず腎機能を確認する必要があります。
2)Cockcroft-Gaultの式
クレアチニン・クリアランスの式の一部に尿中クレアチニン濃度(mg/dL)×尿量(mL/分)とありますが、1分間の尿量(mL)なんて分かりません。実際は1日量を測定し1,440(24時間×60分)で割ります。よって、正確なクレアチニン・クリアランスを求めるときは1日の蓄尿が必要です。
入院患者さんならやるきになればできますが大変であり、外来患者ではそもそもできないので、普段はクレアチニン・クリアランスの推定式(Cockcroft-Gaultの式)を用います。
男性:(140−年齢)×体重/(72×血清クレアチニン値)
女性:0.85×(140−年齢)×体重/(72×血清クレアチニン値)
これなら血液検査で血清クレアチニン値を調べればいいだけなので、すぐに結果を得ることができます。
3)eGFR
クレアチニン・クリアランスは糸球体濾過量の近似値であるが、正確には糸球体濾過量に0.75をかける必要があると説明しました。ちょっと面倒くさいですよね。糸球体濾過量そのものの近似値を知りたいです。それがeGFRです。eはestimateの略で推定という意味です。GFRそのものではなくあくまで推定値です。具体的には
となります。ご覧の通り暗算するのは無理ですが、現在は電子カルテで自動的に計算してくれます。電子カルテがない場合はスマホのアプリやネット上で計算してくれるものがあります。一覧表を見るという手もあります。
以前は糸球体濾過量を推定する方法としてクレアチニン・クリアランスもしくはクレアチニン・クリアランスの推定式(Cockcroft-Gaultの式)が用いられていましたが、最近はGFRの推定式(先程の式)が判明し、かつ電子カルテやスマホの普及で容易に計算できるようになりましたのでeGFRを用いることが多いです。
4)まとめ
長くなったのでまとめです。
- クレアチニン・クリアランスは糸球体濾過量の近似値です(正確にはクレアチニン・クリアランスに約0.75をかけたのが糸球体濾過量)。
- 臨床で実際に使用されるのはクレアチニン・クリアランスの推定式(Cockcroft-Gaultの式)。
- eGFRは血清クレアチニンを測定すると電子カルテが自動的に計算してくれる。
- 最近は糸球体濾過量の近似値としてeGFRが用いられることが多い。
より詳しくは拙著『レジデントのためのこれだけ輸液』で解説しています。