ALSと針筋電図 | 診断的意義が高いとは?

最終確認日:2017/07/29 最終更新日:2017/07/29

コウメイ:読者の方からALSの検査について質問をいただきました。まずは質問の元になった問題を見てみましょう。

第102回医師国家試験I50

67 歳の男性。両側上肢に力が入らないことを主訴に来院した。半年前から両側上肢の脱力が進行性に増悪した。舌の萎縮・繊維束攣縮と両側上肢の筋萎縮・筋力低下・深部腱反射減弱とを認める。下肢の深部腱反射は亢進し、両側のBabinski 徴候が陽性。感覚障害や排尿障害は認めない。

診断的意義が最も高い検査はどれか。

  1. 筋生検
  2. 針筋電図
  3. 呼吸機能検査
  4. 脳脊髄液
  5. 神経伝導速度

 

この問題に対し以下のような疑問を持ったようです。

読者からの質問

ALSの診断を問う問題ということはわかるのですが、bかeで迷ってしまいます。MECのネット講座の解説書によると

b:正しい。神経原性変化をみる。
e: 神経電動速度は保たれることが多い。診断的意義はない。

となっております。確かに、bが正解なのはわかるのですが、本症例のような臨床経過の人に神経伝導速度検査を行って(下位運動ニューロン障害があるにもかかわらず)正常ならALSらしいと判断できる気がします。私の考えはダメでしょうか?

 

コウメイ:基本的な考え方は悪くはないのですが、少し付け加えていきますね。

診断的意義が高いとは?

「診断的意義が高い」の定義がこの問題を解くうえで最も重要になってくるのですが、診断的意義が高いとは何でしょうか?

診断的意義が高いとはある病気に当てはまるものとは違います。ある病気にしか当てはまらない、もしくは2、3の病気にしか当てはまらないものを言います。少し分かりにくいでしょうか?具体的な例で説明していきますね。

 

発熱の診断

例えば発熱を訴える患者がいたとします。「何の病気でしょうか?」と聞かれても分からないですよね。発熱が起こる病気なんて山ほどありますからね。発熱に加え以下の所見があったらどうでしょうか。

発熱+痰と言えば肺炎ですね。発熱だけではなんの病気か分かりませんでしたが「痰」を加える事で病気は肺炎と絞り込むことができました。つまり、「痰」の存在は診断的意義が高いと言えます。

膿尿

発熱+膿尿と言えば腎盂腎炎ですね。「膿尿」も診断的意義が高いですね。

インフルエンザ迅速検査

発熱+インフルエンザ迅速検査と言えばもちろんインフルエンザですね。「インフルエンザ迅速検査」は診断的意義が高いですね。

このように、痰、膿尿、インフルエンザ迅速検査は診断的意義が高いことが分かりました。それでは発熱はどうでしょうか?発熱は診断的意義は高くありません。

いやいや、発熱は肺炎にも腎盂腎炎にもインフルエンザにも起こるのだから重要な所見だろ。このように思われている方いませんか。確かに発熱はそれぞれの病気に当てはまる所見です。しかし、当てはまるのと診断的意義が高いのとはまた別です。先程も言いましたが、診断的意義が高いとは病気を絞り込むことのできるものをいいます。

それではALSについて考えて行きましょう。今回は

  • 針筋電図
  • 神経伝導速度

のふたつについて説明していきます。

 

ALSの診断

コウメイ:そもそもALSの患者はどういう主訴で病院を受診するのでしょうか?

 

学生B:筋力低下だと思います。

 

コウメイ:そうですね。筋力低下を主訴に来院されます。我々はなぜ筋力低下が起きているか考えることになります。筋力低下は大きく以下の病気で起こります。つまり、以下の病気を鑑別する必要があります。

  • 運動ニューロンの変性(ALSなど)
  • 脱髄疾患(Guillain-Barre症候群、Charcot-Marie-Tooth病など)
  • 筋ジストロフィー

 

鑑別すべき疾患が挙がったところで検査を行いましょう。針筋電図と神経伝導速度検査を行った場合、どこまで病気を絞り込むことができるか考えてみましょう。

針筋電図

正常

正常ならALSの可能性は低そうです。

fasciculation potential、高振幅NMU

これが見られたら運動ニューロンの変性を表します。運動ニューロンの変性を引き起こす病気はそう多くはありません。ALSやSPMA、Kennedy-Alter-Sung病あたりです。かなり病気を絞り込むことができましたね。

※ 「fasciculation potential、高振幅NMUって何?」と思われた方はすぐに神経の教科書を読むことをお勧めします。疑問に思った時にすぐ読むと記憶の定着に差がでます。

 

神経伝導速度

正常

脱髄疾患の可能性は低そうです。ということは、運動ニューロンの変性と筋ジストロフィーが残りました。運動ニューロンと筋ジストロフィーのどちらかは分かりません。これは診断的意義は針筋電図より低いことを意味します。診断的意義がないわけではありません。

遅延

脱髄疾患の可能性が高そうですね。

おっ、これも病気を絞り込むことができたじゃないか。やっぱり、神経伝導速度も診断的意義が高いじゃないか!!と思われた方、それは違います。これは脱髄疾患に神経伝導速度の診断的意義が高いことを意味しているのであって、ALSに診断的意義が高いことを意味しているのではありません。

 

以上からALSには針筋電図が診断的意義が高いことが分かりましたね。これで説明は終わりです。