※本記事は連載「これだけ心電図」の一部です。こちらが目次へのリンクになりますので一番初めから読むことをお勧めします。
コウメイ:今回は心房粗動について解説します。
今まで心電図は所見を丸暗記するものではなく、病態から自分で考えるものと説明してきました。本記事を読み終える頃には、それがより実感できると思います。というわけで、いつも通り病態から見ていきましょう。
1)心房粗動の病態
正常では心房を動かす命令は洞結節から60/分位のペースで出ていますが、心房から300/分のペースで出てしまうのが心房粗動です。
心房からたくさん命令が出るものとして心房細動もあります。何が違うのでしょうか?この違いを考えることが心房粗動の心電図を考える上で大事なポイントになってきます。
心房細動は心房の至るところから命令が出ますが、心房粗動は1か所から命令が出ています。
至るところから命令が出ると心房は収縮というよりは細かく震えている状態になりますが、1か所から命令が出ると全ての心房に同じタイミングで命令が伝わるので、全体として収縮することができます。
2)心房粗動の心電図 〜F波〜
ここまでのとろろで、心電図がどのようになるか考えてみましょう。心房細動では心房は細かく震えているだけなので、心電図でも細かい波のようなf波が見られるのでした。
※fは小文字です。
心房粗動は全体として収縮しているので、もっとはっきりとした波形が見られます。これをF波と言います。
※Fは大文字です。
心房粗動は命令が1か所から出ているので、ペースが一定です。よってF波のペースは一定となります。
3)全ての命令が心室に伝わるわけではない
ここまでは「心房」について考えてきました。次に「心室」について考えていきましょう。
冒頭で心房細動では心房から300/分のペースで命令が出ていると説明しました。心房粗動では心房の命令は刺激伝導系を通って心室へ伝わりますが、300個の命令全てが心室に伝わるわけではありません。
房室結節は処理能力が遅いので全ての命令をヒス束に伝えることができません。大体、心房から4個の命令が来たら、最初の1個だけをヒス束に伝え、後の3個は命令を伝えません。伝わらなかった命令は消えてなくなります。
その後、また4個の命令が来たら最初の1個だけをヒス束に伝え、後の3個は伝えないということを繰り返します。その結果、心房が4回収縮する間、心室は1回収縮することになります。
4)心房粗動の心電図 〜QRS波も加えると最終的にどうなるか?〜
今までの内容をふまえ、QRS波はどのようになるか考えてみましょう。まずQRS幅はを考えましょう。命令は刺激伝導系を通って心室に伝わるので、QRS幅は狭くなります。
次にどのようなタイミングでQRS波が見られるか考えてみましょう。心房から出た4個の命令のうち、初めの1個だけが心室に伝わるので矢印のところでQRS波が見られます。
正常な心電図は60/分位のペースなので、P波からQRS波までは時間が空いているので、それぞれの波形ははっきり見られます。しかし、心房粗動は300/分のペースなので、P波(F波)からQRS波まで時間がなく、それぞれが合わさった形になります。
合わさると言っても、P波(F波)は小さく、QRS波は大きいので、結局QRS波の形になります。その結果、先程の矢印の部分はQRS波のみが見られる心電図となり、これが心房粗動の心電図となります。
なお、今回説明した心房粗動は心房からでた4個の命令が、1個心室に伝わりますので、4:1伝導の心房粗動と言います。
今までは心房から出た4個の命令のうち、1個が心室に伝わる心房粗動について説明してきました。実はこのパターン以外に
- 心房から出た2個の命令のうち1個が心室に伝わる心房粗動
- 心房から出た3個の命令のうち1個が心室に伝わる心房粗動
も存在し、2:1伝導の心房粗動、3:1伝導の心房粗動と呼ばれています。心電図は下のようになります。
2:1伝導の心房粗動の心電図
3:1伝導の心房粗動の心電図
2:1伝導の心房粗動と3:1伝導の心房粗動はなぜこのような心電図になるかを考えてみるとかなり心電図に対する理解が深まるはずです。
次は発作性上室頻拍です。