コウメイ:読者の方から質問をいただいたので回答します。
臨床における何かエピソードとか実際印象深かったことなどはありますか?教えていただると私にとっても将来のビジョンなどが見えてモチベーションが上がると思いますので、よろしくお願いします。
それではモチベーションの上がる話をしていきましょう。今回の内容は以下のように思っている方にも読んでいただきたい内容になっています。
- 医師国家試験は臨床の役に立たないんじゃね?
- こんな病気聞いたことない。
- こんな勉強して意味あるの?
- 医師国家試験は重箱をつつく様な問題で困る。
1)くも膜下出血はCTで見分けられる?
突然ですが、以下の画像は何の病気でしょうか?
正解はくも膜下出血です。異論はないでしょう。医師国家試験ではこのように典型的な画像が出題されるので、病歴はそれほど重要でないかもしれません。しかし・・・
1)ある日の救急外来 〜walk inの頭痛患者〜
病歴はくも膜下出血
私が研修医をしていたとき、50歳台の男性が救急外来にwalk inで来院されました。あまり重篤そうな印象はありません。
男性:頭が痛いんですけど。
コウメイ:いつからですか?
男性:3日前からです。近くの開業医に行って頭痛薬をもらったんですけど、 良くならないから来ました。
コウメイ:(そこそこ元気そうだし、薬ももらってるのかぁ。なぜわざわざ救急外来に来たのかな?まぁ、万が一ってこともあるから丁寧に問診しよう)いつから痛くなったのですか?詳しく教えてください。
男性:3日前、草刈をして家に戻る途中急に痛くなりました。
コウメイ:突然だったのですね。
男性:はい、突然です。
コウメイ:(マジかぁ、ちょっとヤダなぁ)痛みの強さはどのくらいでした。10段階で教えてください。
男性:ん~、結構痛かったなぁ。その時は9/10位でした。
コウメイ:(もしや・・)バットで殴られたような痛みじゃないですか?
男性:その通りです。突然バットで殴られたような痛みがしました。それで近くの開業医に行って薬をもらったんですけどよくならなかったので今日来たんです。
コウメイ:(絶対にクモ膜下出血じゃん)すぐにCT撮りましょう。あっ、歩かないで。看護師さん、ストレッチャー準備してください。
頭部単純CTは一見正常
すぐにCTを撮りました。ヒトデ型の陰影があるはずだと思ったのですが・・、CTは一見正常でした。
「そんなはずがない!!」と思ってよ~く見るとわずかにhigh dencity area(HDA)があるようなないような部分を発見しました。クモ膜下出血を疑っていなければスルーしそうな本当にわずかな所見でした。
出血かもしれないと思い脳外科医のS先生にコンサルトしました。
コウメイ:CTではかなり微妙なんですが、病歴からはクモ膜下出血を疑います。一緒に見ていただきたいのですが。
脳外科医S:分かりました。すぐに見に行きます。その間、造影CT(CT-angio)を撮っておいてください。
CT-angioはクモ膜下出血
S先生が到着後、一緒に造影CT(CT-angio)を見ました。すると、小さな動脈瘤が映っていました。先程のHDAの部分と一致します。やはりクモ膜下出血でした。 すぐに手術となり無事退院しました。もし、国試でバットで殴られたような痛みという表現を勉強していなかったらおそらくCTを正常と判断し帰宅させ患者さんは亡くなっていたかもしれません。
この出来事で国試にでてくる表現、典型例を覚えることは大事なんだなぁと改めて思いました。
2)学生時代は実感が無かったが、勉強していてよかった疾患
学生時代は「こんなの覚えて意味あるのかなぁ」と思っていたけど、実際に働くようになってから「勉強していて良かった」と思うような症例はたくさんあります。実際に私が経験した症例を紹介します。
- ある程度受け答えはするが、ぼーっとしている⇒側頭葉てんかん
- 最近風邪気味だった。今はすごく息苦しい⇒心筋炎
- 最近急にぼけたような⇒慢性硬膜下血腫
- 痩せた中学生の胸痛⇒自然気胸
- 熱っぽく腰も痛い⇒腎盂腎炎
- 女性の声が聞こえる⇒統合失調症
- 尿が赤かった⇒腎細胞癌
- 全身に水泡⇒尋常性天疱瘡
などなど。
学生時代の私は正直「こんな勉強して意味あるのかな。 国試は臨床にはあまり役に立たないっていうし・・。まぁ、医師免許をもらうためにしょうがないから勉強するか」と思っていました。でも、実際に研修医になって働いてみると国試に出てきた症例をたくさん経験しました。国試の問題は決して重箱の隅をつつくようなものではなく実際に経験するものがほとんどです。
「聞いたことない、知らない、」と思っているのは井の中の蛙状態です。今思うと自分が知らなかっただけだったんだとちょっと恥ずかしくなります。今皆さんが勉強している病気は決して試験だけにでてくるものではありません。確実に臨床で経験します
実際に経験しないとなかなかモチベーションが上がらないとは思いますが、皆さんが研修医として働くようになってから絶対に役に立ちますので頑張ってほしいと思います。
以上で説明は終わりですが、少しはモチベーションが上がったでしょうか?今後も私の実際の経験をふまえ、皆さんがあまり知らないような病気も身近に感じてもらえるような記事を書いていきたいと思います。