医師国家試験の禁忌肢について

コウメイ:多くの方が医師国家試験が始まる前は一般、臨床、必修を心配します。そして、「まぁ、禁忌で落ちることはないだろう」と考えます。私もそうでした。しかし、実際に国試が終わり、自己採点で一般、臨床、必修が合格圏内であることが分かった後は禁忌が心配になります。実際に気にされている方もいらっしゃるでしょう。今回は禁忌について考えてみたいと思います。
※基本事項として第104回から3問以下はセーフ、4問以上はアウトとなっています。

目次

1)私が医師国家試験を受けたときの話

私は第104回医師国家試験を受けました。試験後、友達と話したり、教科書で確認したりして 一般、臨床、必修は合格点を超えていると確信していました。

しかし、間違った問題の中で、もしかすると禁忌ではないかというのが数個ありました。非常に気になります。ネットで禁忌について調べまくりました。かなり調べましたが、はっきりと禁忌の定義について書いてあるものは(当然ですが)ありません。

ネットの掲示板を見ると、「これは禁忌、これは禁忌ではない。 これは絶対禁忌、これは相対禁忌」など議論されています。私が選んだ選択肢も禁忌候補になっていました。 合格発表までずっとずっと心配でした。

そして合格発表の日。

ネットで自分の受験番号が載っているのを確認しました(つまり合格です)。後日、得点の詳細が書かれた通知書が届くのですが、必修196/200、一般180/200、臨床558/600、禁忌0でした。

結局、禁忌は0問でした。 あれだけ心配したのは何だったのかと思いました。そして、禁忌で無駄に心配する必要のないことを後輩にも伝えようと思いました。皆さんも禁忌で落ちることはまずないので必要以上に心配しない方がいいです。それより、最後の春休みを有意義に使ってください。

といっても、心配している方も結構いらっしゃると思いますので、禁忌について検討していきたいと思います。ただし、繰り返しになりますが、禁忌の定義はどこを探しても公開されていません。あくまで、私の考えになります。

2)臨床での禁忌と医師国家試験での禁忌”肢”との違い

医師国家試験が終わると毎年禁忌についてネットの掲示板で色々議論になりますが、臨床での禁忌と医師国家試験での禁忌を区別しないで話が進められています。まずはこれらを区別することから始めましょう。

私が考える禁忌の定義は

研修医が一人で行えかつ即命に関わる行為

です。例えば、KCLの急速静注などがそうで、臨床での禁忌のごく一部が国試での禁忌になります。実際の問題を通して、上記について説明していきます。まず「研修医が一人で行える」についてです。

そもそも研修医が一人で行えない行為は禁忌にならないと思います。 例えばこのようなものです。

医師国家試験97C15

68歳の男性。腹部の膨満、腹痛、嘔吐および衰弱を主訴に家族に伴われて来院した。
現病歴:3日前から左下腹部を中心とする強い腹痛と嘔吐とを繰り返し、次第に腹部の膨隆が目立つようになってきた。この間、排ガスと排便とはみられず、排尿も2日前からは少量ずつ2、3回あったのみであった、また少量の水分を摂取したのみで経口摂取はほとんどしていなかった。
既往歴:5年前から170/90mmHg程度の高血圧症を指摘されていたが、症状がないため放置していた。手術歴はない。
現症:意識は清明であるが受け答えは緩慢である。身長169cm、体重56kg。体温36.8℃。臥位で脈拍108/分、整。血圧114/78mmHg。腹部は膨隆し、左下腹部を中心として金属性腸雑音を聴取する。打診では腹部全体にわたって鼓音を呈する。肝・脾を触知せず、圧痛や抵抗を認めない。
検査所見:尿所見:蛋白(-),糖(-)。血液所見:赤血球360万、Hb 10.8g/dL、Ht 34%、白血球12,000、血小板25万。血清生化学所見:総蛋白6.0g/dL、尿素窒素38mg/dL、クレアチニン1.3mg/dL、AST 33単位、ALT 32単位、CK 35単位(基準10~40)、Na 128mEq/L、K 3.6mEq/L、Cl 83mEq/L、来院時の腹部X線単純写真を示す。

医師国家試験97C13_画像_腸閉塞のレントゲン

全身状態が改善した後に、大腸内視鏡検査を行った。肛門縁から30cm付近の内視鏡写真を示す。腹部CTで肝腫瘤とリンパ節腫大とを認めず、胸部X線写真でも特に異常を認めなかった。

医師国家試験97C15_画像_結腸癌の下部内視鏡写真

治療法として適切なのはどれか。

a 全身化学療法
b 放射線療法
c 下腸間膜動脈塞栓術
d 腹腔鏡下狭窄部バイパス術
e S状結腸切除術

正解はeのS状結腸切除術ですが、これ以外はやってはダメですよね。臨床では禁忌に当てはまります。でも国試でe以外を選んだからといって禁忌だと思う人はいないと思います。それは、この患者の治療方針を研修医が一人で決定することは絶対にないからです。必ず指導医の先生と検討することになります。 指導医の先生はe以外を選ぶはずがありません。患者にはe以外の治療が行われることはありません。ですので国試でe以外を選んだからといって禁忌にはなりません。

次に第107回医師国家試験A26を例に「即命に関わる」について説明していきます。

医師国家試験107A26

1歳5か月の男児。発熱と鼻水とを主訴に母親に伴われて来院した。昨夜夜泣きをしてなかなか寝付かなかったという。食欲はある。体温38.2℃。呼吸音に異常を認めない。鼻汁が鼻内に充満している。咽頭所見で軽度の発赤と後鼻漏とを認める。右鼓膜の写真を別に示す。

医師国家試験107A26_画像_急性中耳炎の耳鏡

まず行うべき処置はどれか。

a 耳管通気
b 乳突洞削開術
c 抗菌薬の経口投与
d 鼓室換気チューブ留置術
e 副腎皮質ステロイドの経口投与

診断は急性中耳炎で正解はcの抗菌薬になります。aの耳管通気は参考書などでは「悪化するため禁忌」と書いてあるかもしれません。確かに臨床ではしてはいけないことですが即命に関わるものではありません。国試でそれを選んだからといって禁忌にはならないでしょう。

そもそも、「やってはいけいない行為=禁忌ではありません。 やってはいけない行為を禁忌にすると、どの問題も正解以外全て禁忌になってしまいます。ですので、やってはいけいない行為のなかでも、研修医が一人で行え、かつ即命に関わる行為が禁忌になると考えられます。

以下は、ネットの掲示板で禁忌候補として挙げられているものです。禁忌にはなるか考えていきましょう。
※本記事は以前の記事をリライトしたものなので第107回医師国家試験の内容となっています。

  • 末梢静脈路で橈骨遠位端第一選択
  • ファロー四徴症に肺動脈絞扼
  • ACSに運動負荷

3)禁忌肢にならないと思われる行為

【末梢静脈路で橈骨遠位端第一選択】

絶対に禁忌にはならないでしょう。 これをしたからといって命に関わりません。命に関わらない行為はまず禁忌にはならないと思います。

禁忌と考える人の理由として、 「神経を障害する可能性がある」というものだと思いますが、そんなレベルでは禁忌にはなりません。もちろん、橈骨遠位端付近での穿刺はしないほうがいいですけど、なかなか血管が見えない人で緊急性があるときはすることもあります。

【ファロー四徴症に肺動脈絞扼】

禁忌にならないでしょう。 ファロー四徴症の手術は研修医は絶対にできないからです。研修医が絶対にできない行為は禁忌にはならないと思います。

4)禁忌肢になるかもしれない行為

【ACSに運動負荷】

ほどんどの研修医はACSの疑いがあると判断した時点で指導医に相談すると思います。基本的に運動負荷のオーダーは研修医が行うことはないでしょう。そういう意味では禁忌にならない可能性があります。

しかし、稀に指導医に相談しないで検査をしてしまう研修医もいるかもしれません。実際、研修医がオーダーすることは可能で場合によっては実行されるかもしれません。 実行された場合、即命に関わります。このようなことを防ぐために、本選択肢は禁忌になっている可能性もあります。

ACSに運動負荷のレベルになると「絶対に禁忌ではない」とは言えませんが、この選択肢でさえ禁忌になるかは微妙なところです。よって、ほとんどの問題は禁忌にはならないと思います。毎年、受験生を見ていますが禁忌のみで落ちたという報告はまず聞きません。よって、禁忌のことなど気にせずに最後の春休みを有意義に使っていただければと思います。

春休みの有意義な使い方については後日記事にする予定です。

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