(最終確認日:2017.5.13 | 最終更新日:2017.5.13)

 

コウメイ:第111回医師国家試験に非常に勉強になる心電図の

問題がありましたので解説したいと思います。

 

【第111回医師国家試験E63】※かなり長いので大事な部分を抜粋しました。

症例:46歳の男性。心窩部から左前胸部の痛みを主訴に来院。

現病歴:午前9時、会議中に心窩部から前胸部の締め付けられるような痛みが出現。

咽頭部と左肩にも痛みを感じた。15分で改善。

午前9時30分、同様の痛みが出現。15分で改善したが心配になり午前10時30分に来院。

現症:意識清明、バイタル異常なし。

検査所見:Dダイマー、CK、トロポニン全て基準値以下。

胸部レントゲン:特記すべき異常所見なし。

心エコー:前壁から心尖部にかけて軽度の収縮性低下。

 

問題:心電図所見で認められるのはどれか?

  1. 高電位
  2. ST上昇
  3. 右軸偏位
  4. 異常Q波
  5. 陰性T波

Wellens症候群の心電図

 

 

コウメイ:正解はeの陰性T波です。V1-6で見られます。

Wellens症候群の陰性T波

 

問題自体は簡単です。ではなぜ陰性T波が見られるのでしょうか?

 

胸痛があるし、何となくACSによる陰性T波じゃね〜?

 

と思われた方、まぁそれでも悪くはないのですが、もう少し深く考えてみましょう。

ACSって何となく便利な言葉でつい使ってしまいますが、

ACSの中の何なのでしょう?

 

つまりACSは

  • ST上昇型心筋梗塞
  • 非ST上昇型心筋梗塞
  • 不安定狭心症

に分けられますがこのどれなのでしょうか?

それぞれ考えてみましょう

 

ST上昇型心筋梗塞か?

おそらく違うでしょう。

まず来院時症状がないし、来院前の症状の持続時間も短いです。

来院後の検査で心エコー以外異常がないのも非典型的です。

そもそも心電図にST上昇がありません。

 

いやいや、心筋梗塞ではそんなにすぐに検査で異常が見られないんですよ。

だから、心筋梗塞を否定してはいけません。知らないんですか〜?

 

と思われた方、いいご指摘ですが、もう少し考えてみましょう。

もちろん、心筋梗塞はすぐに検査で異常がでないので否定するのは

慎重にしなければいけません。本症例も心筋梗塞を完全に否定することはできません。

 

しかし、しかしです。仮にこれが心筋梗塞だとして、なぜ陰性T波が

あるのでしょうか?

 

心筋梗塞で陰性T波は見られるっしょ!!

 

と思われた方、ちょっと待ってください。確かに心筋梗塞で陰性T波は見られます。

しかし、心筋梗塞でまず見られるのは陰性ではなく、高いT波です。その後、

 

ST上昇→異常Q波→ST正常化→T波の陰転化→陰性T波

 

となります。T波の陰転化は数日後から始まり、約1週間位で完成し

陰性T波になるとされています。この陰性T波を冠性T波と呼びます。

ちなみに異常Q波は基本的になくなりません。

よって、この心電図の陰性T波が心筋梗塞によるものであれば、

冠性T波であり少なくとも数日は経っていることになります。

また、異常Q波とセットで見られるはずです。

本症例は発症後1.5時間であり異常Q波も見られません。

よって、この陰性T波は心筋梗塞が原因の可能性は低いと考えられます。

 

非ST上昇型心筋梗塞か?

そもそもの定義ですが、非ST上昇型心筋梗塞の定義は

トロポニンの上昇があるがST上昇がない

です。

 

本症例ではトロポニンの上昇がありません。

よって非ST上昇型心筋梗塞と診断はできません。

もちろん、発症から時間が経っていないので否定はできません。

ただ、来院時に症状がなくかつその時に陰性T波があるのは少し合わない気がします。

 

不安定狭心症か?

それでは不安定狭心症でしょうか?

不安定狭心症なら来院時に症状が治まっていることや、血液検査で

異常がないことは合います。

しかし、普通不安定狭心症の心電図と言えばST低下です。

さらに言えば、症状のあるときにST低下が見られるのです。

よって、これも合いません。では、この患者はACSではないのでしょうか?

 

結論から言えばWallens症候群が最も考えられます。

 

Wallens症候群

Wallens症候群は不安定狭心症のひとつです。

不安定狭心症なので突然症状が出現し、自然と治まることがあります。

普通、不安定狭心症は症状があるときにST低下(+陰性T波)が見られますが、

Wallens症候群は症状があるときはほぼ心電図変化が見られません

しかし、症状が治まったときにV2-3を中心に陰性T波(もしくは二相性T波)が見られます[1]。

 

心電図所見からはあまり大したことがなさそうですが、Wallens症候群は

前下行枝の近位部狭窄が原因とされていますので超重症です。

 

本問題では症状があるときの心電図がないのと、CAGの結果がないので、

Wallens症候群かどうかは分かりませんが、可能性は高いのではないかと

考えています。

 

少なくとも、Wallens症候群というものがあるというのは覚えておくと

きっと役に立つと思います。

 

以上、ACSについてのちょっと詳しい解説でした。

今回は以上で終わりです。お疲れ様でした(^_^)

 

references

1.石野.心臓2015;47:993-999

 

Wellens症候群〜第111回医師国家試験E63の超詳しい解説〜