コウメイ(@kokusigokaku):読者の方から「感染性心内膜炎と左房粘液腫との鑑別」についての質問をいただきましたので回答します。まずは質問の元になった問題を見てみましょう。
57歳の男性。労作時呼吸困難のために来院した。1か月前から労作時の呼吸困難と全身倦怠感とを自覚するようになった。既往歴に特記すべきことはない。脈拍、血圧は正常。拡張期心雑音2/6を聴取する。尿所見異常なし。血液検査は赤沈の亢進(79mm/1時間)、CRP高値(3.8mg/dL)はあるが、Hb、白血球、血小板数に異常なし。
- 左房内に発生する頻度が高い。
- 保存的治療が第一選択である。
- 組織学的には悪性が多い。
- 体位によって症状が変化する。
- 合併症に塞栓症がある。
a (1)、(2)、(3) b (1)、(2)、(5) c (1)、(4)、(5) d (2)、(3)、(4) e (3)、(4)、(5)
答え(クリック)
c
感染性心内膜炎と左房粘液腫の鑑別はどのようにすればよいでしょうか。どちらもMR/MSになりえますし、炎症反応もあります。エコーでも大きさ等は違えど似たような所見だと思います。
感染性心内膜炎の場合は、Osler結節等があれば即決できるのですが、それ以外ですと抜歯などの感染を疑わせるヒストリーや基礎疾患の有無、血液培養の結果(でも、なかなか起因菌は出てこないとうかがいましたが)を重視して診断したらいいのでしょうか。
国試では、そういったことが記載されていなければ粘液腫という消去法的な考えでいいのでしょうか。
感染性心内膜炎と左房粘液腫の病歴、基礎データの違い
まずは病歴が違います。感染性心内膜炎は血液中に菌が存在する(菌血症)結果起こります。血液中に菌が存在する状態をイメージしてみましょう。熱は出ますよね。その結果頻脈にもなるでしょう。
本患者はなぜか体温の記載がないのですが、症状出現から1か月後に病院を受診しており、おそらく発熱で苦しんではいないと思われます。脈拍数も正常です。
倦怠感があるようですが、1か月間我慢できる程度なので菌血症とは思えません。菌血症の倦怠感はかなりつらいでしょう。
血液検査で白血球数が正常です。もちろん、白血球数が正常だからといって完全に菌血症を否定することはできませんが可能性は低いでしょう。
感染性心内膜炎(IE)では基礎疾患を有することが多い
IEは何かしら基礎疾患を有することが多いです。特に心臓の弁に異常が起こるような疾患を持っています。例えば
- リウマチ熱の既往
- 心室中隔欠損症
- 僧房弁逸脱症候群
- 僧房弁閉鎖不全症
- 大動脈弁閉鎖不全症
- 人工弁
などが有名です。本患者では既往がありません。感染性心内膜炎の可能性は低いでしょう。
※中には基礎疾患がない場合もありますので(105D40)完全に否定することはできません。
感染性心内膜炎では菌が体に入る原因がある
基礎疾患があっても血液に菌がいないと本症は起こりません。これも、「なぜか知らないけど血液に菌が入っていた」ということは起こりません。何かしら原因があります。例えば
- 抜歯
- う歯
- 尿カテーテル
- 血管カテーテル
- 注射針の使い回し(麻薬使用者)
などが有名ですね。本患者では記載がなく、感染性心内膜炎の可能性はさらに下がります。
感染性心内膜炎と左房粘液腫の心エコーの違い
感染性心内膜炎はどこの病気でしょうか?基本的に弁の病気です。疣贅は弁にできます。大きさは比較的小さいです。
左房粘液腫はどこの病気でしょうか?その名の通り、左心房です。心房中隔と茎でつながっています。
このように、感染性心内膜炎と左房粘液腫とは質問者が思っている以上に鑑別すべきポイントがあります。以上を踏まえ再度問題を見てみるとよいでしょう。第105回医師国家試験D40と比較するとよりよいです。
※実臨床では判断が難しい症例も存在するでしょう。しかし、そのような問題は医師国家試験では出題されません。「分かりにくい心エコーが出題されたらどうしよう?」などと考えるよりは、他の問題を解くことをお勧めします。
52歳の男性。労作時の息切れを主訴に来院した。1か月前に歯科治療を受け、数日後に全身倦怠感と発熱とが出現した。徐々に悪化したため来院。既往歴に特記すべきことはない。体温38.5℃。脈拍104/分。心尖部で全収縮期雑音を聴取する。血液培養でグラム陽性球菌が検出された。