静脈還流量の増加で肥大型心筋症が改善する機序

コウメイ:読者の方から肥大型心筋症について質問をいただきました。

読者からの質問

肥大型心筋症では静脈還流量上昇により狭窄が改善するということですが、静脈還流量の増加はスターリングの法則により心収縮力増加をきたし狭窄が悪化すると考えられます。この矛盾はどのように解釈すればよろしいでしょうか。 お忙しいところ恐縮ですが、どうぞ宜しくお願い致します。

目次

1)左室駆出率(EF)は100%ではない

この質問を理解するには左室の収縮を理解することが大切です。心エコーで確認してみましょう。以下の写真を参考に左室に注目してください。

心エコーの正常

左室は収縮していますが、左室内の血液全てを駆出しているわけではないのに気づいたでしょうか?

左室の血液をどれだけ駆出したかの割合をEjection Fraction(EF)と言いますが、EFは100%ではありません。大体、60-70%程度です。例えば、EFが60%の場合、静脈還流量が増える前と後では左室の収縮がどうなるか考えてみましょう。

静脈還流量が増える前

話を分かりやすくするために拡張末期の左室の大きさを100としましょう。収縮期の大きさはいくらになるでしょうか?60%の血液(100×0.6=60)を駆出するので、残りは100-60=40になります。

※正確にはこのような単純な式にはならないのですが、ここでは分かりやすくするため単純化して考えていきます。

静脈還流量が増えた後

今後は静脈還流量が増えた場合を考えてみましょう。血液がたくさんあるので拡張期には左室が大きくなります。例えば、150の大きさになったとしましょう。収縮期の大きさはいくらになるでしょうか?60%の血液(150×0.6=90)を駆出するので残りは150-90=60になります。

※静脈還流が増えた後もEFが60%であるかは難しいところですが、分かりやすくするためEFは60%のままとしましょう。

2)収縮期の大きさを比較する

以上から静脈還流量が増える前の収縮期における左室径は40、静脈還流量が増えた後の収縮期における左室径は60となります。ということは、静脈還流が増える前の方が左室径が小さいことが分かります。

当然ですが、左室径が小さいほうが流出路が狭くなります。つまり静脈還流が増える前の方が流出路の狭窄は狭くなっています。

以上から、静脈還流量が増えると収縮力が増加するが、狭窄は悪化しないことが分かります。

3)β刺激薬を使用した場合

ちなみに、β刺激薬を単独で使った場合を考えてみましょう。β刺激薬は収縮力を増加させるのでEFが大きくなります。例えば、EFが80%になったとしましょう。β刺激薬では静脈還流量は増えないので拡張末期径は100となります。80%の血液(100×0.8=80)を駆出するので、収縮期の大きさは100-80=20となります。

左室径が小さくなりましたね。流出路も大分狭くなっているでしょう。よって、β刺激薬を単独で使用した場合は肥大型心筋症は悪化します。

目次