3号液を血管内投与したときの分布【これだけ輸液 p49】

コウメイ:『これだけ輸液』を読んでいただいた方からご質問を頂きました.

読者からの質問

p49に「水の分布を求める際は、輸液製剤のK+濃度をNa+濃度に足す必要がある」との記述があります.Na+/K+-ATPaseはNa+とK+を3:2の比で交換すると思います.それならば,K+濃度の1.5倍のNa+が細胞外に輸送されると考えてしまいました。K+濃度の1.5倍ではなく1倍の値をNa+濃度に加える理由をお教えください.

ごもっともな質問ですね.回答いたします.

目次

1)細胞内外のイオンの数は同じ

まず,ヒトの体の細胞内と細胞外の陽イオンの数(正確には電荷)は同じです(陰イオンの数も同じです).よって,細胞外から細胞内に陽イオンが移動した場合,細胞内から細胞外に同数の陽イオンが移動します.

※よく「細胞内は細胞外に比べマイナスになっている」と言われますが,それは細胞膜付近での話です.細胞全体では電気的に中性であり,細胞内と細胞外でイオンの数は同じです.

2)色々なチャネルがある

そして,ここからがポイントなのですが,細胞膜には多数のチャネルが存在します(図やイラストには記載されないことが多いです).その一つに(Na+/K+-ATPase以外の)Naチャネルがあり,細胞外から細胞内にNa+が移動することができます.このチャネルによって,Na+/K+-ATPaseで細胞外に移動したNa+の一部が細胞内に移動します.

以上から,細胞内に移動したK+と細胞外に移動したNa+は最終的に同じ量になります.

※Naチャネル以外にも陽イオンを通すチャネルがあるので,正確に言えば,細胞外から細胞内に移動する陽イオンはNa+だけではありません.よって,細胞内に移動したK+と細胞外に移動したNa+は完全には同数ではなく,K+:Na+ = 1:0.95かもしれません.しかし,細胞外の陽イオンの大多数はNa+ですので,ほぼ同数と近似できます.重要なのは1:1か1:0.95ということよりも,きちんとフォローし,輸液を調整することです.

3)フォローが重要

以上の説明は輸液後ある一定時間(数時間)の病態です.一定時間を過ぎると,腎臓(尿)からNa+やK+が排泄されるので,血清Na,血清Kは変化します.また,血清Na,血清Kの変化は個人差もあります.よって,実臨床では,血液検査を行い,実際の値を確認した上で輸液製剤や輸液量を調整することが重要です.

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