1)「なぜ?」が書いていない解説が多い。
医師国家試験の勉強をしていて以下のような解説を見たことはありませんか?
18歳の男子。胸痛と呼吸困難とを主訴に来院した。ランニングの途中に突然の右胸部痛と呼吸困難とが出現し、約10分様子をみていたが呼吸困難が更に悪化したため来院した。脈拍104/分、整。血圧90/60mmHg。SpO2 92%(room air)。頸静脈の怒張を認める。呼吸音は右側で減弱、右胸部の打診は鼓音を呈している。酸素投与を開始し、胸部エックス線写真を撮影したところ右肺の完全虚脱と左側への縦隔偏位を認めた。
直ちに行う処置はどれか。
a 下肢挙上
b 胸腔ドレナージ
c 昇圧薬投与
d 人工呼吸器管理
e 鎮痛薬投与
正解がb(胸腔ドレナージ)と分かった時点で、他の選択肢は行わないことが分かります。読者が解説に求めるのは「行うか」「行わないか」ではなく、「なぜ行わないか?」です。この「なぜ?」の部分が書いていない解説は意味がありません(というか解説ではありません)。
2)「なぜ」をきちんと説明した解説の例
本ブログでは「なぜ」をできるだけ意識して解説をしております。先程の問題は以下のように解説します。
診断は気胸です。血圧の低下、頚静脈の怒張があり緊張性気胸の可能性が高いです。
a 下肢挙上(不正解)
一般的に血圧が低下した場合の対処として下肢挙上があります。下肢の血液を下大静脈に集めるのが目的です。しかし、本患者では頚静脈の怒張があることから上大静脈にはたくさん血液が集まっていることが分かります。おそらく下大静脈にもたくさん血液が集まっているでしょう。緊張性気胸の病態は右房・右室が圧迫され拡張できず、上大静脈や下大静脈の血液が右房・右室に流れないことです。よって、下肢挙上は意味がありません。
b 胸腔ドレナージ(正解)
胸腔ドレナージが正解であることに異論はないでしょう。ここで覚えてほしいのは胸腔ドレナージができない場合の対応です。胸腔ドレナージは道具がそろわないとできません。色々準備していると10分位かかるでしょう。また、やり方を知っていないとできません(国試に合格したからといってできるようにはなりません)。そこで知っておくべきは胸腔穿刺です。鎖骨中線上第2肋間上縁(下縁ではなく上縁です)を18Gの留置針で刺します。これである程度の時間をかせぐことができます。
c 昇圧薬投与(不正解)
昇圧薬の作用は心収縮力を上げるか血管を収縮させるかです。本患者で血圧が低下しているのは、心臓の収縮力が弱っているからではなく、拡張できないからです。また、本患者では動脈への血流が減っており、血圧を維持するためそもそも末梢の血管は収縮していると思われます。これ以上収縮させてもあまり血圧は上がらないでしょう。よって昇圧薬はあまり意味がありません。
d 人工呼吸器管理(不正解)
人工呼吸器などの陽圧呼吸は必要のないどころか、緊張性気胸を悪化させるためしてはいけません。
e 鎮痛薬投与(不正解)
本患者は胸腔ドレナージが必要です。ドレーン挿入後、疼痛を訴えることがあります。胸腔ドレナージ後に鎮痛薬を検討します。
3)きちんとした解説を広めるためにブログを始めました
問題の解説をしていて自己紹介が遅くなりました。コウメイ塾を運営しておりますコウメイと申します。第104回医師国家試験に必修97%、一般90%、臨床93%で合格し、2012年3月に初期研修を終了しました。
元々医学教育に興味があったことや、自分の勉強も兼ねて研修医終了後に医師国家試験の解説書を読んでみました。改めて見ると、結構解説が適当だなぁという印象を受けました。各科の専門医が自分の経験を踏まえきちんと解説している部分もあるのですが、学生が参考書をただ丸写ししているだけと思われる部分も多数見られます。
これは解説書そのものの存在を否定しているわけではありません。500問もの膨大な問題を決められた時間で書籍にするのはものすごく大変な作業です。参考になる解説もあり有用です。しかし、前述したように不適切な解説も見られます。その部分は放置しておいてよいものではありません。きちんと解説し直すことが必要です。そうすることで、医大生やひいては患者さんのためになります。
そこで、きちんとした解説を学生に伝えたいと思い、2012年10月にブログをスタートしました。
4)重用な問題を解説しております
私は臨床医として働き、帰宅後は執筆などを行っています。できるだけ多くの問題の解説をしたいと思っていますが、時間的に難しいです。よって、特に重要なものや正答率が低い問題をとりあげています。逆に言えば、本ブログで解説している問題は重要な問題となります。
5)本ブログを利用した勉強の仕方
本ブログの趣旨をご理解いただいたところで、本ブログを利用した勉強の仕方について説明していきます。
① 記事を読む
前述したように、(きちんと解説されていない)重用な問題をとりあげています。カテゴリー欄や検索窓を利用し好きな記事からご覧ください。
② 書籍を読んで見る
本ブログの記事に加筆し、より詳しい内容を書籍にまとめました。記事を気に入っていただけたら書籍もご検討ください。
現在、以下の書籍をお買い求めいただけます。
6)連絡先
情報発信は主にtwitterで、質問などはメールもしくはメールフォームで行っております。
twitter:https://twitter.com/kokusigokaku
メール:kokusigokaku@gmail.com
以上、「きちんとした解説とは?」に始まりブログの趣旨や利用法を説明させていただきました。本ブログが医師国家試験合格やひいては研修医生活のお役に立てれば幸いです。